FDC式歯周病治療

はじめに

本章はFDC式の歯周病治療を理解するために必要な医療情報を中心に構成されています。そのため歯周病に関する一般的な病因論は他のHPに多く掲載されていますので、それらをご参照下さい。また、感染論、細胞間シグナル伝達などに基づいた病因説明などは専門的すぎますので別の章でわかりやすい形で情報提供したいと考えています。 それではFDC式の歯周病治療の考え方と治療技術をご覧下さい。

1.歯周病の病状

1.1.歯周病の細菌が歯周組織の免疫より優位にたてば歯周病は始まる

歯周病は歯周組織付近に存在する病原微生物(細菌)が歯周組織の免疫力より強い場合には発病します。歯周組織の免疫最前線が破られれば細菌が組織内に侵入、組織構造を破壊することによりエネルギーを獲得し増殖しはじめた状態が歯周病のはじまりです。

注1)本HPでは歯周病、「むし歯」、智歯周囲炎などを起因する病源微生物の総称を細菌と呼称します。

1.2.歯周病は局所条件だけでなく心身状態がプアであれば病状が進行する

しかし、歯周病は歯周組織の構造や免疫力の強弱、細菌の悪性度といった局所的な要因だけでなく、加齢や基礎疾患、あるいは長期のストレスなどの影響をうけるためより悪化します。

注2)基礎疾患・・・主として血液(血管)や代謝などに関連する全身性の疾患で高血圧、糖尿病などがあり、慢性心不全、重症肝障害、慢性腎不全、膠原病(リューマチ)などの病気

1.3.歯周病は40才台から本格的に進行する

特に持病をもちながら長期のストレスに曝されている中高年の方は全身の免疫能力は45才前後から急速に低下しますので「悪性度の高い細菌」が歯周ポケット内に繁殖していますと急速に病状が進行する場合があります。気がつくと歯の周囲から血や膿がでるだけでなく痛みや腫れが生じ、歯並びが乱れ口臭もするようになります。

1.4.歯を取り巻いている歯槽骨の薄い人は歯を早く失う

さらに加齢が加わりますと歯の周囲の骨(歯槽骨)が薄い方の場合、前歯や上顎洞に近接している上顎の臼歯などでは歯を支えている骨の病的破壊によって腫れたり痛んだりするだけでなく一段と歯の動揺が大きくなり、他の人より早く歯を喪失します。

2.歯周病の症状

2.1.歯周病は歯肉だけの病気ではない。

歯周病による出血や腫れなどは直接、自分の眼で確認することができますが、それが症状のすべてではありません。しかし、歯周病という病名のためか歯肉の病気で、はやく受診さえすれば歯周病にならないという認識不足や相当に進行した歯周病にもかかわらずブラッシングでなおせる、などという誤解があるようです。
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【歯周病も重症になるとブラッシングだけでは、このように出血の改善はみられず、細菌の制御(殺滅・除去)とレーザー治療が必要















上記、重症の歯周病のポケットから採取された大量のrodやT.d菌。

2.2.歯周病の怖いのは歯を支える骨が溶けて消えること

歯周病が恐ろしいのは、すでに述べていますように気づかないうちに歯の周囲の歯槽骨(歯肉の下に存在する)が破壊されて消えていくことです。歯を支えている骨が消失するのですから歯がぐらついて十分に噛めなくなるだけでなく最後には次々と歯が抜けてしまします。

2.3.心身状態もプア、歯周組織の免疫力も弱い場合は治療困難

歯周病はブラッシングで治るような簡単な病気ではなく多くの要因によって成立する感染性疾患であるため既存の治療法では十分な改善が見込めない症例もあります。なお、FDC式治療法は後述します。

以下に中程度以上の歯周病の病像を紹介致します。

3.歯周病の症状(中程度〜重症例)

3―1.歯周病の重症化は身体の異常事態

以下に歯周病の病状と処置の結果などを示していきますが中程度から重症に到れば現在の歯周病の治療法では無惨な状態になっていることがお判りになると思います。このことは歯周組織に限定した治療理論では限界があることを示しています。

なぜかといえば口腔組織は身体で最も傷の治りの早い組織であり、しかも重要な頭部に存在することです。それだけに細菌のような身体に有害な異物侵入を防ぐために十分な防御システムが張り巡らされ24時間機能しているはずです。 それにもかかわらず、なぜ、身体が、この重要組織に細菌の増殖を許しているのか、ということです。

免疫力も強い口腔組織に細菌が増殖しつづけ頭部の骨が病的に破壊するのは極めて異常な事態です。 それでは以下に症例を示しながら歯周病治療の問題点とFDCの取組み方を紹介致します。

3―2.歯周病治療の基本と限界への挑戦

1)感染症としての細菌対策は?

歯周病が感染症であることは自明ですから、なによりも優先するべきことは原因となる細菌の制圧(溶菌・除去)です。 また、歯周病の耐性菌に対しては、例外を除き、培養などによって細菌の特性に応じた「細胞膜破壊法」を中心とした制圧法を研究・開発しています。

2)歯周組織の免疫力は現状の歯周病治療だけでは十分なコントロールができない。

次に、従来の歯周病治療をおこなっても容易に細菌が復活、増加している現実から歯周組織の免疫力が低下していると考えられます。加齢による免疫力の低下は当然として、上に述べたように心身のプアな状態は免疫力を低下させます。糖尿病をはじめ基礎疾患による影響だけでなく、さらに使用される薬剤も影響致します。医師との連携により、この課題に取組む必要があります。

*運動体力と防衛体力(免疫力)は異なる。

3)歯槽骨の多様性と病的変化に対する新理論(骨免疫学)

また、歯を取り巻いている骨の量や密度も個人によって大きく異なっている以上、FDCでは平面レントゲンだけでなくCT撮影によって早期から歯周病罹患後の進行リスクを予測しています。歯根周囲の歯槽骨の状態を考えずに定型処置をおこなっても同じ治療結果にはなりません。さらに、歯槽骨の病的変化は従来の免疫学だけでは解決できない問題がありますのでFDCは新しい考え方として「骨免疫学」の視点からの研究をすすめています。

4)ストレスと歯周病

持病だけが歯周病の慢性化や悪化をもたらすのではなく、現代人は職場や家庭以外にも交通事故や震災などの多くのストレスに日々、曝されています。これらのストレスが心だけでなく身体に影響することは「精神免疫学的」にも認められています。

持病がなくともストレス累積の影響による免疫力の低下で病状が進行するのですから持病に加齢の影響まで加われば病状の悪化は当然といえます。これらの症状に対してFDCは少食療法を基準に東洋医学と瞑想法によって改善致します。

以上、述べましたような歯周病は多様な要因が絡み合い、中程度まで進行しますと従来の定型処置では簡単になおらない病気であることがお判りいただけたでしょう。いえることは「細菌は心身の異常を写す鏡」だということです。

しかし、中程度以上の症状であっても病原菌除菌(溶菌・除去)と東洋医学などの代替医療を加えることで腫れや痛みなどが消失、または軽減致し病状も改善致します。Photo−5.1、Photo−5.2

Photo−1.67才で健全な歯周組織
(FDCペリオアクティブ管理技術による)

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Photo−3.多量の出血

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Video−1.歯周ポケット内の細菌

Photo−4.排膿(少量)

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Photo−5.排膿(多量)

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Photo−6.腫れ

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Photo−7.歯並びの乱れ

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Photo−8.歯槽骨が破壊されたCT画像

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Photo−9.抜歯

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Photo−10.抜歯

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これらは従来の歯周治療をおこなったものですが、残存細菌活動の再開により症状が悪化、当院に転医するも手遅れのため抜歯したものです。

Photo−11.歯の喪失

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57才男性(既往歴なし):複数の医院で受診するも歯周病は改善せず、某国立大学・歯学部歯周病科において歯周外科手術(フラップオペ)を受けたが3回目の手術後、菌血症のため体調不良になりかかりつけの内科医よりドクターストップとなり、当院に転医。初診時、すでに大半の歯は保存不可能な状態にあり、位相差顕微鏡検査やDNA検査においても大量の細菌が検出された。

すでに歯の保存は困難であり早期の抜歯をすすめるが同意が得られないために病原菌除菌(溶菌・除去)、レーザー治療、食事療法などにより炎症症状を消失後、数年かけて抜歯を行なったもの。患者さんに持病はなくとも病因である病原菌除菌を歯周病の早期段階で実施されていない場合、後に歯周外科手術をおこなっても、このような結果になります。

4.患者さんの自己診断

3−1.歯肉からの出血は赤信号の点滅

歯肉からの出血がある場合は必ず位相差顕微鏡による細菌検査が必要です。出血部位の歯周ポケットには活動性が高く、毒性の強い偏性嫌気性菌が存在している場合が多く見られます。このような場合は病状を進行させないために、ただちに、歯周ポケットの細菌を制圧(溶菌・除去)する必要があります。

この歯肉からのシグナルを見過ごしてしまいますと病状はさらに悪化していきます。特に中高年の場合では病状の進行につれて赤い出血が白い膿に変化いたしますので気づきにくくなります。

そのため歯周病が治ったように感じますが実際は一段と悪化しています。この段階のシグナルは痛みや歯肉から膿がでるだけなく、唾液がねばり嫌な口臭を拡散するようになります。

3−2.歯の動揺は赤信号

歯周病診断は歯肉の状態よりも、歯肉から見えない歯根をとりまいている歯槽骨の病的変化を早期の段階で正確に診断することが最も重要です(CT撮影が必要)。日常での注意点は歯の動揺です。たえず血や膿が出るだけでなく、歯肉がしばしば腫れてくるようになるとすでに重症になっています。このシグナルを無視していると加齢の影響が加わり、いつのまにか病状が急速に進行し多数の歯を喪失いたします。

注1)一般におこなわれる歯周ポケットの測定は細菌が歯周組織に与えた病的変化の結果を測定しています。正確な診断のためには、この結果を産みだしている原因の細菌情報を検出することが先決です。治療前の歯周ポケットには細菌が大量に存在している可能性があるため、測定後に痛みや腫れが発生するリスクがあります。

注2)嫌気性のロッドやT.d菌は敏捷な菌種のため白血球の走化速度では補足することが困難であり、ブラッシングやフロシングでも除去することが困難のため細菌を積極的に殺滅・除去する処置が必要となる。

5.治療の要点

4−1.正確な診断

正確な診断に基づいて、はじめて適切な治療が行われることはいうまでもありません。そのためには感染症の歯周病であれば原因となる細菌を検査をおこなうことによって病巣の細菌情報を掌握致します。これに基づいて適切な治療が可能になります。

4−2.歯周病の処置は迅速、集中的に実行

治療は大きく分けて以下の3課題を解決することです。軽症の場合は以下の1,3の処置で済みますが、中程度以上、つまり歯槽骨が歯根の1/2まで破壊され、歯の動揺がみられる場合は1〜3までの処置を平行して集中的に行う必要があります。

なお、FDCでは病原菌除菌を中心にレーザー治療、東洋医学処置、食事療法などの総合的な治療法により歯周病を改善しています。そのため、現在では、よほどの例外を除き患者さんにとって身体負荷の大きい歯周外科手術は以前ほど必要性がなくなっています。

  • 1.病原菌除菌(溶菌・除去)

    偏性嫌気性菌をはじめ各菌種の生存特性に対応した病原菌除菌(溶菌・除去)を行います。歯周病は感染症ですので治療の基本は病原菌除菌になります。 病原菌除菌

  • 2.動揺歯に対する咀嚼力分散装置の装着

    歯の動揺が激しい場合は細菌が歯周ポケット深部に侵入するため、これを防ぐために動揺歯を固定する必要があります。治療中の動揺歯の固定は細菌の深部侵入を防止するもので咀嚼回復のためではありません。7.歯周病による動揺歯の治療をご参照下さい

  • 3.病的歯周組織の修復

    歯周組織の組織回復のためには、治癒のさまたげになる壊死組織の除去や細菌によって産生、蓄積された細菌毒を組織から除去する必要があります。大半はレーザー治療で十分ですが重症の場合は歯周外科手術が必要です。

4−3.FDC式治療法による改善例

FDC式治療技術は歯周病を従来のような手術や抗菌剤に頼らず、@病原菌除菌(溶菌・除去)、Aレーザー治療、B動揺歯の負担軽減装置  C病的組織の改善などの様々なハイテク技術や東洋医学を駆使することによって好結果に導いています。 以下にFDCの治療例を示します。

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6.FDCの診断法

5−2.DNA検査(PCR-Invader法)

FDCは位相差顕微鏡検査によって細菌の生態観察をおこなっていますが、2002年6月からDNA検査(PCR-Invader法)を用いて歯周ポケットに存在している細菌の菌種や菌数を分類、定量化しています。初期処置後に第1回のDNA検査を実施、ポケットの菌種、菌数を記録し、2回目の検査値との増減を比較すればポケット内の細菌制御の状態を客観的に判断することが可能となります。同時に、治療術式の治療効果を判定することもできます。また、検査値の総細菌数(検査対象菌以外も含む)から患者さんの免疫機構の強弱を推定することが可能です。

歯周病が広範囲におよぶ場合や重症の場合に1歯の検査部位を選択するには慎重に行なう必要があります。その場合、位相差顕微鏡検査、あるいはCT画像検査などと併せて総合的に判断します。なお、FDCのDNA検査菌種は臨床経験から以下に示す5菌種を対象としています。詳しくは4−3.DNA検査は治療の登山口

【検査対象細菌】
Prevotera Intermedia, Fusobakuerium nucleatum T.forsythensis, Prophronas.gingivalis,
A.actinomyscetemomitans,
注)Treponema.denticolaならびに移動性のrodは位相差顕微鏡検査で十分と考えています。

【DNA検査の様子】
歯周ポケットのDNA検査はポケット内に軽くペーパーポイントを10秒間挿入するだけですので、痛みはありません

5−3.DNA(PCR-Invader法)検査についてのQ&A

Q1. DNA(PCR-Invader法)検査の目的は?
A1. 歯周病の診断や治療効果の判定データとして使用します。歯周ポケット内の細菌の種類や量を正確に調べることにより診断の精度を向上させることができます。
Q2. DNA(PCR-Invader法)検査はいつから?
A2. FDCの検査導入は2002年6月からです。
Q3. 位相差顕微鏡検査との違いは
A3. 位相差顕微鏡検査は細菌を生きたまま観察することができます。これが他の検査と大きな違いです。そのために細菌の運動特性や生菌か死菌かの判別、あるいは細菌の密度など病巣部に存在する細菌のダイナミックな生態が観察可能です。

一方、DNA検査では細菌を生きたまま観察することはできませんが遺伝子解析技術で細菌の名前が正確に判明します。また、また、菌数を測定することができますので、より客観性の高い治療を行なうことができます。
Q4. 検査はどの様な症状になれば受ける必要がありますか?
A4. 内科的な病気がないのにもかかわらず歯肉からの出血がホームケアで止らないような場合などは必要があります。
Q5. 検査は1度だけですか?
A5. 原則は術前、術後の2回必要です。しかし、FDCは位相差顕微鏡の16000件のデータベースがありますので初期の歯周病は位相差顕微鏡検査で臨床上の問題無い、と考えています。但し、難症例あるいは歯周外科手術後は必要です。
Q6. 検査費用は?
A6. 現在、検査料は6菌種で28,000円です。ドイツでは健康保険に10年ぐらい前から導入されていますが日本では保険に適用されていません。しかし、DNA検査をすることにより的確な診断が下せますので中高年になって歯を喪失し、インプランや義歯になることを考えれば必要な健康投資といえます。

【DNA検査(invader法)結果 1】
DNA検査(invader法)結果通知票。

【DNA検査(invader法)結果 2】
DNA検査(invader法)結果通知票。

to be continued