8.FDCの抜歯基準

1.抜歯は治療でない、とする誤った考え方

患者さんの中には抜歯は治療でないと考えておられる方がいます。また、一部の歯科医はどんな歯でも、うまく治療すれば抜かずに保存可能とする、考え方があります。
しかし、このような考え方は歯科が医学の一分野であり、歯科疾患は感染症であることを十分に理解されていない誤った考え方です。

2.「う歯(むし歯)」や歯周病の末期は慢性骨髄炎化します。

「う歯」や歯周病は細菌による感染症ですから全身的、または組織免疫力の低い患者さんの場合、原因菌が歯だけでなく歯の根をとりまく歯槽骨に広がりますと骨髄炎になります。
特に以下の症例は抜歯が必要です。

注1.下顎智歯(親知らず)の再三の炎症が生じる場合、適切な抜歯が行なわれないと入院、
   手術が必要になります。

注2.上顎洞と歯根が近接している場合、再三の炎症が治まらない場合は上顎洞に感染が
   広がっている(歯性上顎洞炎)と考えられますので、すみやかな抜歯、
   場合によっては入院、抜歯を含めた手術が必要になります。

3.FDCの抜歯は医学的根拠に基づいて行ないます。

FDCが抜歯を行なう場合は歯科学的な視点ではなく医学的根拠に基づいて行ないます。また、FDCは感染拡大リスクのある歯に対して、一時的な消炎処置を繰り返すような処置は治療ではない、と考えていますので、このような処置は行なっていません。

4.抜歯の猶予期間について

患者さまが抜歯に合意された場合は速やかに抜歯いたします。 但し、下記の場合、一定期間内、抜歯を猶予する場合があります。
1)抜歯に耐える体調が十分でない場合。
2)入院(注1,注2)を必要とする場合、仕事や家庭の事情があっても調整されて早期に入院する必要があります。

5.猶予期間中の処置について

1)症状の鎮静後も病巣部の状態が改善していない場合がありますので手術予定の期間までに急な感染拡大を防止するための処置と養生状態をチェックするために定期的な受診が必要になります。
2)消炎処置などで著しく症状が改善した場合であっても半年以内の観察期間中に急性症状が生じた場合は、すみやかに入院処置の必要があります。

6.FDCの抜歯基準

FDCの一般的な抜歯基準は下記の通りです。

6−1.むし歯の抜歯基準(1.根尖性歯周歯周組織炎

  1. 1)無髄死であって歯冠が3/4以上崩壊

  2. 2)根管内から歯根表面に到る象牙細管の複数箇所から大量の細菌が検出された場合。
     注)通法の根管治療法だけでは細管内の深部に存在する細菌の除菌は不可能。

  3. 3)該当歯の象牙質がFDC分類で「C」、また「C」に準じる場合。
     注)該当歯の象牙質がFDC分類で「C」、また「C」に準じる場合。
    【1−7.歯は平等に作られていない】

残っている歯の形態だけで観察しますと「差し歯やポストコア、あるいはヘミセクション」などの修復技術があります。しかし、FDCは下記の理由がある場合は再治療リスクが極めて高いため、このような修復処置をせず抜歯致します。

▲根管治療だけでは象牙細管内の深部に存在する広範囲に感染した
 細菌を制圧することは不可能です。
▲修復予定歯にマイクロ・クラック(ひび)や破折が多数存在する歯は  
 「C」または「C」に準ずる脆弱な象牙質構造と考えています。

▲アムロジンなどの降圧剤、あるいは象牙質に影響を与える薬剤などを  
 長期服用している場合であって象牙質構造が「C」,  
 または「C」に準ずる方は薬物の影響によると推定される管間象牙質に  
 変質や強度劣化がみられます。さらに、このような象牙質に多数の  
 細菌が存在します。

一般的に歯冠部が崩壊した場合、前歯では根充後、ポストクラウン(差し歯)、臼歯ではコア などを装着して歯冠部を修復します。しかし、FDCは前述の理由から再治療リスクが極めて高い歯については、このような修復処置をせず抜歯致します。

6−2.歯周病における抜歯基準

歯周病における抜歯の判断は一般検査に加えて、CT撮影、DNA検査、位相差顕微鏡検査などによって総合的に判断いたします。 要約しますと「1.歯槽骨の状態」と「2.病状改善に必要な免疫能力の程度」の2つの要因になります。

歯周病の抜歯基準は

  1. 1)歯根が歯槽骨から離れており治療手段がない場合(第4度、末期)。

  2. 2)糖尿病など基礎疾患の病状悪化により歯周病の改善が見込めない場合。

  3. 3)高齢者で歯根周囲の歯槽骨が1/4以下で動揺が激しく咀嚼困難な場合。

  4. 4)歯の周囲の歯槽骨が1/3以下であっても歯周外科手術、
      あるいは細菌除菌処置に同意されない場合。

  5. 5)炎症の再発を繰返し、ホームケアに非協力的で治療方針にも同意されない場合。

▲歯を支えている「歯槽骨の量、および歯槽骨の質」の変化について
 歯槽骨は単に局所の感染による影響だけではなく、全身的には
 関節リュウマチ、あるいは骨粗しょう症などの影響をうけます。
 歯槽骨の課題については今後、「骨免疫学」の研究成果を
 取入れた新しい治療法が考案されると考えられます。

▲局所免疫能力の低下について
 歯周組織に関する免疫能力の判断は
 歯周ポケットの病原菌除菌後、病巣部における細菌の
 増加速度や増加量から判断します。加齢や糖尿病などの
 基礎疾患をもたれている患者さまの免疫力は低下いたします。

▲免疫力低下は加齢や持病だけではない。
 免疫力は持病以外に精神的なストレス、
 あるいは過重労働などによっても低下いたします。

歯周病はこのように様々な要因によって病状が悪化致しますので、一般的な歯周処置(歯周外科手術を含む)の効果だけでは十分な効果が得られません。