FDC式根管治療

1.根尖性歯周組織炎(歯根膜炎)の病状

ー歯の歯髄(神経など)を抜いた後に生じる病気ですー

体が疲れてきますと歯の神経(歯髄)を抜いた歯にもかかわらず、 激しく痛んだり、歯肉が腫れたりすることがあります。さらに病状が進行いたしますと根の先に 膿の袋(歯根のう胞)などをつくるようになります。このような病状が根尖性歯周組織炎です。

注)根管(こんかん)・・・歯の神経を抜いたあとの空洞組織

Photo−1.瘻孔(ろうこう):sinus tract

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患者さんの免疫力が低下していますと感染根管では根管内壁の細菌が歯根の尖端から歯槽骨へと侵襲し、骨を破壊しながら歯肉表面までの管をつくります。これを瘻孔(ろうこう)といいます。
矢印(A)は排膿孔(この部位から膿が流れます)。

体調が低下しますと炎症のために瘻孔内に膿が溜りますが瘻孔が閉鎖されていると膿が流出しないため歯肉が腫れたり、歯が激しく痛んだりします。

Photo−2.歯根のう胞(Radicular cyst)

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2.化膿性歯根膜炎の原因

原因は体の免疫力低下によって抜髄後の根管内壁、あるいは根尖周囲に潜伏していた細菌が繁殖し、歯根膜に炎症を生じさせるためです

3.再発の原因

3−1.再発の原因は根管内の除菌不全

再発の主な原因は根管内の病原菌が十分に除菌されていないことによるものです。

そうではなく根充が不完全だから、という強い反論で炎上しそうです。しかし、永年の臨床経験から根充が十分であっても再発を生じ、一方、根充が不十分であっても長い年月にわたって再発しない症例が少なからず存在します。

また、平面レントゲンやCT画像では完全な根充と見なされる症例でも根尖部に病巣のある症例がしばしば見られます。(参照:Phot3,Phot4) これらの画像から判明するように複雑な根管形態に完全な根充を行うことは神業といえます。

再発を防ぐためには根充の正確さを競うことではなく、根管治療の目的である病原菌の除菌を徹底することです。

3−2.抗菌剤は根管内壁の象牙細管に到達しない

感染根管治療は根管内の炎症性産物の排出や根管壁の壊死象牙質を除去し、根管内を清掃致します。さらに、症状の重い場合は抗菌剤も投与します。

しかし、抗菌剤を投与致しましても歯の象牙細管内部に存在する細菌コロニーまで抗菌剤を到達させることは極めて困難です。この事実は位相差顕微鏡検査によって確認することができます。つまり症状は治まっても通常の方法では細管内に病原菌は存在しています。

3−3.しかも病原菌は根管側壁に同心円状に存在しない

そこで、これらの細菌除去のために従来はリーマ類の治療器械を用いて徹底的に細菌の存在していると考えられる根管壁の拡大、清掃を行います。「Video―1」は従来法による根管内の細菌状態を示します。臨床上「Video―1」まで細菌を減らせば十分に思えます。しかし、FDCの第1次病原菌除菌を行った後の「Video―2」をご覧下さい。これが細菌コロニー(1.3mmX1.5mm)の実態です。「Video―3」は第2次制圧の結果です。FDCは機械的清掃だけでなく構造生物学に基づく技術により病原菌除菌を行います。

3−4.感染根管治療は除菌が目的、拡大技能は手段の一部

根管は複雑で多様な構造であり、さらに膨大な本数の象牙細管によって構成されています。細管内に侵入した細菌に対して機械的に壊死組織を除去(根管拡大)するだけでは感染根管治療として不十分と考えられます。近年、このようなトラブルが多発するのはテクニックエラーの問題ではなく、感染根管治療における病原菌除菌が十分に行なわれていないのではないかと推測致します。

注)根充(こんじゅう)・・・根充とは歯髄を抜いたあとの根管(歯髄空間)にガッタパーチャなどを充填すること。但し、現在では十分な除菌が確認されていないにもかかわらず、根充が十分であれば根尖部の閉鎖には可能とする考え方が主流であるが臨床実務上の除菌が確認されて成立つ治療理論である。歯学教育は再考されるべきである。

Video―1.機械的拡大後の根管内の細菌

通法による根管清掃後も根管内容物に細菌が検出されている場合は根管内壁に細菌コロニーの存在が推定される。

Video―2.第1次除菌

音波により剥離した象牙質片より検出された大量の細菌。

0.2mm程度の象牙質の薄片にも大量の細菌が存在しているため根管治療は極めて難しい作業であり、無症状であっても即日根充は慎重におこなわなければならない。

Video―3.第2次除菌

根管壁の細菌が十分に除菌された状態

Photo−3.前歯の歯根のう胞(平面レントゲン)
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右側の歯の先端(黄色矢印)に病巣が存在する。しかし、左側の残根は不完全な根充にもかかわらず病巣はなく、無症状で32年を経過している。

これについて異論はあるかと思いますが平面では完全な根充にみえてもCT撮影では不完全な例が少なからず見うけられます。

安易な根充は問題外としても、根管側壁には除菌困難な細菌が存在する以上、不完全な除菌のままでの【根充至上主義】は再考すべきでしょう。

Photo−4.大臼歯の歯根のう胞(CT画像)
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この症例も、根充は平均点といえる。しかし、残念ながら大臼歯の根先に「歯根のう胞(黄色矢印)」が観察されます。除菌の不良や根の形態、さらに薬剤耐性菌や骨免疫の問題などがあるため、根充を基準に後医は軽率に前医の評価を下すべきではないと考えます。

4.FDC式感染根管治療

FDC式根管治療(自費)は下記の方法で実施しています。

  • 1.除菌を実施しながら壊死組織ならびに炎症性産物の除去

    根管内は病原菌が存在し、これらの細菌による壊死組織や炎症性の産物が大量に存在します。そのため、根管内の病原菌拡散防止のために器械操作の際は除菌しながら実施します。
  • 2.根管内と根管内壁の除菌

    根管壁に隠れているミクロンサイズの多様な細菌を除菌するためには適切な【除菌技術】を選択し、位相差顕微鏡によって効果を判定致します。
    注)根管壁除菌に関するテクニカル・ノウハウは公開していませんので、
      受診希望の患者さまは直接、ご来院戴きましたら詳細をご説明致します。
  • 3.根充前の除菌確認

    症状の確認は当然として根充前の除菌確認は重要です。リーマ類の手ごたえや、視野拡大装置の視覚検査による除菌判定は不十分です。FDCは位相差顕微鏡による「細菌情報」によって除菌効果を判定します。
    注)位相差顕微鏡検査以外にグラム染色法、偏性嫌気性菌などの各ガス環境に
      応じた細菌培養検査やMRSA培地による培養検査などの多様な細菌検査を
      実施しています。
    この【除菌確認】を省略し、根充をいくら精密におこなっても再発の可能性は残ります。

5.病巣部の拡大と細菌の可視化

「見えないものを見えるようにすること」が技術の基本です。

5−1.CCD術野画像拡大システム+画像データベース

根管治療は通常3mm程度の治療をするために肉眼で十分に観察することは困難です。信頼性の高い治療を行うためには治療対象の視野拡大が必要です(Photo−5)。このためには対象領域をCCDカメラと高解像度画像システムによって最大400倍程度まで拡大、治療を行います。

また、これらの画像情報は患者さんの病歴画像としてFDC統合化医療情報システムにデータベース化されています。

Photo−5.大臼歯根管孔の拡大写真(3根管)

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5−2.位相差顕微鏡検査の有用性

5−2−1.位相差顕微鏡による根管壁細菌の検出と除去確認

位相差顕微鏡検査は根管内の細菌の種類や量、さらに活動性などを生きたまま観察することが可能です(Photo−6)。これらの細菌情報をデータベースに保存し、治療の都度、前回の治療と現在の細菌の状態を比較することにより病状と治療効果を判定することが出来る重要な検査システムです。治療しながら細菌情報を入手できますので、今までのような見えないままに行う経験主義的な治療と異なりエビデンスに基づく治療が可能になります。特に他院からの繰返し治療をされてきた患者さんの再発の原因を正確に知ることができます。

Video−6.根管内の細菌(活動性大)

注)細菌の運動パターンについて
位相差顕微鏡の検査経験の浅い方は細菌運動はすべてブラウン運動と思い違いされている方がおられます。しかし、細菌の活動と微細物質のブラウン運動とでは移動経路を比較しますと明らかに異なる場合があります(Photo−6.1 Photo−6.2) 微細であっても細菌の中にはイオンエンジンを使用して高速移動可能なものまで存在します。微細であっても生物である細菌は常にブラウン運動に身をまかせているのではなく目的をもって移動しています。

Video−6.1 微粒子のブラウン運動

無生物の微粒子は無目的な運動(ブラウン運動)を繰返しながら物理的な条件に従って移動しています。

Video−6.2 菓子の微粉に群がる細菌

Photo−6.1の状態に類似していますが注意して観察しますとこれらの細菌はエネルギーを獲得するために集合しています。

Photo−7.グラム染色された細菌

【Fig-6.】のままでは根管内の細菌の区別がつかないためグラム氏染色法(Browan Hopps法)によって【グラム陽性菌】【グラム陰性菌】に鑑別いたします。【グラム陽性菌】【グラム陰性菌】では細菌細胞壁の構造が異なるために染色後に色の差が生じます。FDCは、この鑑別結果をもとに病原菌除菌に最適な細胞壁破壊の術式を選択いたします。【Fig-7】の中で矢印の先の赤く染まっている点が【グラム陰性菌】で、周囲の青紫に染まっている点状のものが【グラム陽性菌】です。

●グラム陽性菌:Eubacterium bachy Eubacteriumnodatatum, Mogibacterium timidium,
Parvimonas mica Stphylcoccus,Streptcoccus, Clostridium, Enterococcus S.pneumoniae
E.faecalis Lactobacillus,Peptostrept ococcus, Propionibacterium

●グラム陰性菌:Tannerella forsythia, Fusobacterium nucleatum,
Prophyromonas gingvalis Prevotella intemedia Prevotella loescheii,
Campylobacter rectus, Treponema spp, Enterococcus, Bacteroides B.fragilis,
Pseudomonas.aeruginosa

6.治療方法について

FDCの感染根管治療は【3.FDCの治療原理】に基づいて行ないます。

最初に@壊死組織の徹底的な除去(根管拡大)、次に、A根管内の細菌の種類や生態を位相差顕微鏡やグラム染色法などにより検査致します。これらの【細菌情報】から細菌の特性に応じた【制圧術式】を選択し、徹底した病原菌除菌(溶菌・除去)を実施致します。病原菌除菌法はすでに【3.FDCの治療原理】で述べていますが、主に以下の3種類の方法によって行ないます。感染源を制圧(溶菌・除去)いたしますので治療後の再発率は当然、低下いたします。

6−1.病原菌除菌法

  • 1)細菌生存環境奪取法

    病巣部に存在する細菌群の特性に応じて細菌細胞膜周囲のガス組成や、pH、などを変化させることにより制圧(溶菌)します。
  • 2)細菌細胞構造破壊法

    1)細菌の構造特性に合わせて直接、直接細胞壁に対してFDC開発の化学的、物理的な手段によって制圧(溶菌)します。また、根管壁に沈積している細菌による化学的な毒性産物はレーザー照射により蒸散(ガス化)させます。
    注)化学的方法・・・薬事法に定められた範囲内の薬品を使用すると共に根尖部組織に有害性のないものを使用します。
  • 3)クオラムセンシング遮断法

    細菌が組織の免疫システムに効率的に対抗するためには一定数が必要である。その員数を確認するために同じ細菌間、あるいは他種の細菌間との化学的な通信(細菌・クオラムセンシング)を行なっている。この通信システムのシグナルを化学的な方法により妨害、または混乱させ細菌相互間の連携を断ち集団活動を制圧する。

歯根膜炎は根管内に存在する多種類の細菌によって起因するため、制圧は位相差顕微鏡によって細菌の状態を観察しながら上記、3種類の方法を組み合わせて実施致します。





6−2.レーザー照射法

それでは【細菌細胞構造破壊法】の一術式であるFDC式レーザー治療を紹介致します。(Photo−8)は従来の根管治療後の検査結果です。当然ですが根管の壊死組織をリーマー類などの大型器械による徹底した機械的な拡大や清掃をおこなっても細菌レベルでは限界があることがわかります。(Photo−1〜Photo−4参照)  根管内の細菌サイズは2〜5/10,000mm以下であり、根管は試験管のような単純な構造ではないため、細菌はいくらでも根管壁の象牙細管に侵入することが可能です。

そこでFDC式では根管内に前処置を行ない、細菌の運動能力を低下させた後、レーザー光による熱衝撃(ヒートショック)を与えて細菌を制圧致します(Photo−9)また、レーザー治療はレーザーの高熱により根管内組織の熱傷、あるいは高温空気の膨張などによるトラブルがありますので慎重に操作いたします。

(Photo−10)はレーザー照射後の根管内細菌の制圧状態を検査したものです。制圧の目的が果たされています。しかし、前処置が行なわれていない場合は、このように制圧(溶菌)することは困難です。FDCでは12年間のレーザー治療(31,000照射)の経験からレーザーによる単純照射だけでは根管内や歯周ポケットの細菌を完全に制圧することは困難だと考えています。

Video−8 レーザー照射前の根管拡大後の細菌の状態

治療後、すべての根管が、このように残存細菌が多いわけではない。しかし、小量であっても毒性の強い菌種が存在した場合、免疫力が低下した時に不快な症状が生じますので病原菌除菌を行なうことが必要です。
FDCは、これが感染根管治療であると考えています。

Photo−9 レーザー照射による治療
(レーザーファイバー傾斜法)
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狭小な根管にレーザーファイバーを真っ直ぐ根管に挿入し、根管を完全に閉鎖してしまいますとレーザーの瞬間的な高温(1000℃)により急速に根管内の空気が膨張しますので患部周囲に皮下気腫を誘発する危険があります。そこで高温の空気を逃がすためにレーザーファイバーを慎重に傾斜させて挿入しています。

Photo−10 レーザー照射後の細菌の制圧状態

制圧目標は果たしています。根管治療は根充を完全にする前に根管内の病原菌除菌することだと考えています。

さて、重要なことは治療後、必ず細菌の制圧状態を位相差顕微鏡検査によって確認し、生存している細菌を見逃さないことです。生存細菌は、すでに薬剤、あるいは熱耐性が生じている可能性があると考えられますので何故、制圧出来なかったかを検討し、現在の術式の再検討をする必要があります。

口腔内の細菌も生き残るために常に進化してます。

7.現代根管治療の問題点

最近の根管治療は従来の薬剤による治療法から物理的な術式が主流となっています。つまり汚染されている根管内面を一定サイズまで拡大し壊死組織の除去を行ない、その後は根尖部組織が治りやすいように無刺激性の材料により根充することが優れた治療法と考えられています。そのため治療後、トラブルがなければ現代の治療水準とみなされています。しかし、この物理的術式は感染症治療における【壊死組織の除去】の範囲にとどまり原因である細菌の制圧(溶菌・除去)を主たる目標としていない点に問題があります(位相差顕微鏡の世界・【むし歯】を参照)

FDCは感染症治療の基本は病原微生物の制圧(溶菌・除去)であり、拡大処置による壊死組織の除去だけでは細菌の制圧(溶菌・除去)は不十分だと考えています。また、無刺激性の根充法の意図は理解できますが、この材料では残存する細菌に対する抑止力がないため細菌の繁殖に対しては無力です。治療の一端である以上、リスク対応を考えた根充でなければ単なる根管という空間の閉鎖作業にすぎないといえます。今日では薬剤耐性菌に対して世界的な取組みが始まり病原菌除菌の重要性が高まっているにもかかわらず物理的術式を唯一無二とすれば根管治療後のトラブルが増加するのは当然といえます。事実、近年、身近に根充後のトラブルが増加しているのはテクニックエラーだけの問題ではないと考えられます。

それでは次に示す資料をご覧戴き、根管治療がパイプ内の掃除作業のようなシンプルな行為で良いのか、どうかを一緒に考えたいと思います。下の図は歯根を横断し、治療をおこなっている根管周囲の細菌の存在を模式的に示しています。当然ですが、実際には、このように細菌が決った場所に存在しているわけではありません。要は物理的な拡大をいくら熱心に行なっても細菌の除去には限界があるということです。

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次に示す【Photo−2】は歯根表面の検査用に削除した部位(Photo−1.の青枠内)を示しています。

【Photo−3】は特殊な波長を照射することによって検体象牙質の主要構造物である細管が細菌によって侵襲された状態が青い反応によって示されています。また【Photo−4】は同じ検体を位相差顕微鏡によって根管からかなり離れた場所に生存する細菌をとらえています。

最後の【Photo−5】は歯根の先(歯根嚢胞)に生存している大量の細菌です。

Photo−2
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Photo−3

Photo−4

Photo−5

FDCが感染根管治療で配慮していること

  • ●【歯根部の象牙質】は数万本の象牙細管という微細なチューブで構成されており、細菌はその中に侵入・繁殖することにより感染が成立する。

    注)感染=発病ではなく、宿主(患者さん)の免疫力の低下によって発病する。

  • ● 細菌は根管孔から等距離に存在しない。

  • ● 機械的な清掃法だけで細菌を完全に除去することは極めて困難である。

  • ● 象牙細管に存在する細菌は多種類であり、今や薬剤耐性菌も存在する。

  • ● 象牙細管に存在する細菌の位置や残存数を測定する技術はない

FDCは上記の事実から歯髄炎の抜髄当日の即日根充については根管内の病原菌除菌(溶菌・除去)を十分に行なった後に実施します。また、感染根管治療では西洋医学だけでなく東洋医学処置をおこなった場合でも病原菌除菌(溶菌・除去)が困難であると判断した場合は患者さんと相談した上で抜歯を致します。

8.根管治療の目的と治療完了の判断基準は?

しかし、そもそも歯の痛みのために抜髄し、また治療完了後に再び痛みや腫れが生じたため、その原因を除去するために根管治療が行われているはずです。感染根管内には原因の細菌が存在しているはずですから、本来、根管治療の主眼は根管拡大(壊死組織の除去)ではなく病原菌除菌(溶菌・除去)のはずです。当然、治療完了の判定基準は細菌量と活動性に置くのが合理的であると考えています。

9.修復行為の根充には病的にこだわらない

Photo−6.複雑な歯髄形態
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歯科界の偉人である小野寅之助博士研究の根管解剖図(根管(歯髄腔)解剖図鑑より転載)

感染根管治療の目的である根管内や側壁の細菌の制圧(溶菌・除去)の確認を十分にすることなく、また複雑多様な歯髄空間にもかかわらず、平面レントゲンで根充状態を了とする考え方には歯科学的に疑問が残ります。およそ先人達は根充をする場合、二度と根管を開けないことを祈って根充を終えていました。根充をするときは物をつめるのではなく歯科医魂をこめて根充をするように教わった記憶があります。

複雑多様な歯髄形態に拡散している細菌を完全に制圧することが困難であることは事実です。同様に根充もCTで観察すれば明白なように、完璧とおもっても隙間が生じます。しかし、根管治療において病原菌除菌が可能な限り十分におこなっていた場合、修復行為にすぎない根充のテクニックを病的にこだわる必要はないと43年の臨床経験から思います。結果は心身の条件と根尖周囲の組織の抵抗力が決めるようです。

10.根管内の細菌のなかには従来の歯科薬剤に耐性がある。

毎回、根管治療の終了時に細菌の制圧(溶菌・除去)状態を観察し、次回、来院時に細菌を検査すれば、この期間の細菌の増減が判明します。つまり前回処置後から来院までの治療効果が判定可能です。患者さんからの症状を聞くだけでなく細菌の生態はどうなっているかが一番重要です。軽度な症状であっても細菌数が増加し、活動性がたかまっている場合があります。この原因の一つとして、すでに細菌の種類によっては従来の歯科用薬剤に対して耐性菌が存在すると考えられます。

11.複雑、多様な根管形態、千変万化の心身状態に規格治療は疑問

根管治療は千変万化する患者さんの心身状態の下で,複雑、多様な根管壁の1ミクロン前後の狭小な細管に侵入、増殖している細菌を制圧(溶菌・除去)するという高精度の技術です。根管治療の成否は将来の歯の喪失につながる歯科医療の根本技術であり、また歯科医の良心が問われる技術でもあります。

マイクロテクノロジーであり、また感染治療にもかかわらず細菌検査を省略し、形式的な根管治療や根充だけを規格化しても医療の品質が担保されないことは自明です。 規格化とは「均質な原材料を一定手順で加工する」場合に適用される「工業用語」であり、医療にはなじまない概念であることを強調しておきたいと思います。