14.品質管理(Quality Control)

1.歯科医療における品質管理のむずかしさ

歯は、一般的に個人差の少ない一個の材料のように考えられています。しかし、1本の歯であっても1100〜3000万本の微細な象牙細管によって構成され、構成本数や成分、また細管液の内容も人によって大きな差があります。さらに、同じ歯も時間と共に食物や加齢、あるいは様々なストレス、さらには常用している薬などによって歯の状態は変化致します。当然ですが歯髄がなくなれば歯は劣化致します。

さらに問題は、歯に生じる変化は他の諸臓器によってもたらされるため未だに解明されていない事象が多々、存在しています。歯、個々の多様性だけでなく変化にも富んでいるため治療だけでなく、充填や冠なども正確な修復にもかかわらず一定期間後の処置結果では相当なバラツキが生じます。心身から多くの影響をうけて変化していく独立した存在でない歯(原材料)に対して均質な原材料を前提とする工業製品の品質管理を歯科診療に導入するのはきわめて難しいと考えられます。

注)解明されていない事象・・・・歯の構造の静的な研究結果だけなく、動的(時間的)な変化に対する偏微分方程式などによる数的モデルが存在しないこと

2.歯科医療における医療技術評価

すでに述べたように「均質性でない歯」に対して規格的な治療法を行なえば治療結果にバラツキが生じることは自明なことです。複雑系の歯科臨床事象に対する合理的な診断論理が存在しない以上、あいまいな診断となり、この診断と経験を頼りに治療をおこなうのですから信頼性の低い治療結果が生じるのは当然です。技術が未だ確立されていない状態で医療技術の評価基準を定めるのは本末転倒といえます。

3.品質管理技術(Quality Control Technology)への取組み

FDCは経済性の視点からのみ行われる安易な規格化、標準化について疑問を呈しているだけであって品質管理の考え方自体を否定しているわけではありません。FDCは臨床研究や技術開発だけでは信頼性の高い医療技術を安定して提供することは困難であると考えています。しかし、品質管理(QC)技術によって患者さんに高信頼性の医療技術を提供できると考え1980年代から取り組んでいます。QC技術の導入のために財)日本規格協会(JSA)の主催する品質管理や標準化セミナーをはじめ信頼性技術セミナーなども受講すると共にスペシャリストによる技術指導をうけています。

現在、自費の診断や治療にも導入されていますが、患者さんにわかりやすい具体例としましてはFDCの自費診療(特別規格)で【FDC規格2014】と呼ばれている補綴処置10.高規格補綴は、これらのQC技術の背景によって完成されたものです。しかし、歯科処置には多くの要因が関与致しますので、これらの品質管理基準は2年ごとに治療結果を検証し、必要に応じて見直されます。また、自費診療の「高規格」にも【FDC規格2014】の技術が一部導入されています。現在、臨床分野におけるQC技術の適用範囲を拡大していくために日々の臨床データを分析しています。10.高規格補綴へ

しかし、品質管理など不要と考える方は以下の症例をご覧下さい。これでは歯科医の不信だけではなく歯科医療の権威失墜にもつながります。臨床では個々の技術の向上も大切ですが、本当に向上しているか否か、自己の治療に対する技術評価を一定期間毎に統計的に見直す品質管理【的】技術も重要であると考えています。

まずは、上部構造体(冠、義歯など)に用いられ歯科材料の安全性、ならびに補綴物の耐久性などから取組んできました。なお、治療の品質管理はFDC治療原理で、冠、義歯については高規格補綴で紹介していますのでご覧下さい。高規格補綴治療の原理

4.問題のある自費補綴の症例

以下に示す例は自費治療としては少々、疑問の残る症例です。自費治療は保険診療とは次元の異なるハイレベルの品質が求められています。定型的な細工仕事ですますのではなく、自費治療に相応しい臨床技術を発揮する必要があります。

Photo−1.支台歯の設計ミスによる破折

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【症例1】アタッチメント装着の2週間後に大臼歯破折、抜歯

この症例は、本処置を受ける前に当院を受診され、インプラントもリスクが高く義歯以外に処置法がない事を伝えましたが納得されず他院でアタッチメントの補綴処置を受ける。しかし、2週間後に噛めなくなったことを主治医に伝えるが、しばらく様子をみたいとのこと。そこでFDCに応急処置を希望されて再来院。大臼歯がすでに破折状態であることを伝え、装着した歯科医に処置をしてもらうように伝える。

Photo−2.セラミック冠装着後の早期抜歯

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【症例2】セラミック・クラウン装着後、痛みのため4週間後に冠除去、さら5ヶ月後抜歯

この症例はセラミック・クラウン装着後も噛合わせると痛みがあり、その後も痛みが強くなったため転医、しかし、投薬後も激しい痛みがとれずFDCを受診、装着後、約約1ヶ月で冠と埋め込まれた困難な2本のスクリュウを除去(所要時間は2時間半)。その後、根尖部の細菌情報、ならびにCT画像などの医療情報を総合的に判断、抜歯を行う。この症例は自費にもかかわらず定型的な治療を行ない短期間で抜歯にいたったケースである。

Photo−3.不適切な支台歯

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患者さんは今回、歯型をとり、次回にセラミック冠を装着ということでしたが支台歯が変色(茶色)のままで処置をすることに不安を感じて当院に転医。問題の歯は1/2に着色部(←)がみられ、この状態は、まだむし歯の細菌が活動している感染象牙質です。

(Video−1) 支台歯(矢印)から検出された細菌

検査の結果、着色部の象牙質より活動性の高い細菌が検出されています。このような支台歯に冠を装着すれば短期間に歯根膜炎や冠脱落の可能性が高いと考えられます。歯の半分以上がむし歯であれば細菌は歯の深部に侵入していると考えられますので歯型をとる前に感染象牙質の徹底した除去と病原菌除菌が必要です。